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杭工事(基礎ぐい)とは?仕事内容や魅力、将来性と関連資格を徹底解説
ビルやマンション、工場、橋など、大きな構造物を支えるうえで欠かせないのが杭工事(くいこうじ)です。表面からはほとんど見えませんが、地面の深いところで建物を支えている基礎ぐいの仕事がしっかりしていないと、安全な建物はつくれません。杭工事の仕事は、その一番大事な足元づくりを任される、責任の大きいポジションです。
本記事では、
杭工事とは何か
具体的な仕事内容
杭工事の魅力・やりがい
将来性やキャリアパス
未経験20代が取るべき資格
まで解説します。
「体力には自信がある」
「どうせ働くなら手に職をつけたい」
「安定して稼げる仕事を探している」
という方にとって、杭工事は十分アリな選択肢です。ぜひ、これから紹介する内容を読みながら、自分が現場で働くイメージをふくらませてみてください。
杭工事=建物の荷重を支えるため地面に杭を打ち込む工事
杭工事は、建物を支える基礎の中でも、特に地面の深いところに杭(くい)を打ち込んで建物の荷重を支える工事のことを指します。地盤がやわらかい場所や、背の高い建物・重量のある構造物をつくるときには、表面だけの浅い基礎では支えきれません。そこで登場するのが基礎ぐいの仕事です。
基礎工事全体の流れの中で見ると、杭工事は建物本体の工事が始まる前に行う、とても重要なステップです。地盤調査の結果をもとに、杭の種類・長さ・本数・位置が決まり、その計画どおりに正確に杭を施工していきます。少しでもズレれば、後の工程にひびくため、精度と安全性が特に求められる工種と言えます。ここではまず、
杭そのものの役割
杭工事が必要になる地盤や建物の条件
杭の種類や工法の違い
土木と建築での位置づけの違い
など、基礎的な部分をかみくだいて解説していきます。
杭の役目=建物を支える縁の下の力持ち
杭(くい)は、一言でいうと、建物の重さをより硬い地盤まで伝えるための柱です。地面の中に縦向きに入っている、長いコンクリートや鋼(鉄)の棒のようなものをイメージしてください。
地表近くの土は、ふかふかしていたり、雨でぬかるみやすかったりと、あまり強くありません。その上に大きな建物をそのまま乗せると、時間とともに少しずつ沈んだり、傾いてしまう危険があります。そこで、もっと深いところにある固い地盤まで杭を伸ばし、建物の荷重をそこに逃がすことで、沈下や傾きを防いでいます。
杭の支え方には、大きく分けて支持杭と摩擦杭という考え方があります。
支持杭:杭の先端を固い層にしっかり到達させ、その層で建物を支える。
摩擦杭:杭の側面と周りの土との摩擦力によって荷重を支える。
現場ではこれらを組み合わせながら、建物の大きさや地盤条件に合った設計が行われます。
杭工事が必要になる現場の条件は地盤の強さと建物の大きさ/荷重
すべての建物で杭工事が行われるわけではありません。杭工事が必要になるかどうかは、主に地盤の強さと、建物の大きさ・荷重で決まります。
まず重要なのが土質(どんな地盤か)です。川沿い・湾岸部・埋立地などは、地表近くがやわらかい粘土や腐植土でできていることが多く、そのままでは大きな荷重に耐えられません。このような場所では、数十メートル下の固い地層まで杭を入れる必要があります。一方で、山地や古い台地などの地盤がもともと非常に固い地域では、浅い基礎だけで済む場合もあります。
次に建物の規模・用途です。高層マンション、オフィスビル、大型の商業施設、工場、橋脚など、重量のある構造物は、地盤への負担が大きいため、杭工事を採用することがほとんどです。逆に、一般的な木造2階建て住宅など、比較的軽い建物の場合は、表層改良(地表付近の土を固める工事)で対応するケースもあります。
現場で働く作業員としては、「この現場はなぜ杭工事が必要なのか」を理解しておくことで、仕事の意味や重要度がよりはっきり見えてきます。「なんでこんなに長い杭を入れるのか」「なぜ位置の精度を厳しく言われるのか」といった疑問も、地盤や建物の条件を知ることで腑に落ちるようになります。未経験から入る方も、地盤の基本を少しずつ覚えていくと、現場での会話がぐっと分かりやすくなります。
代表的な杭の種類(場所打ち杭・既製杭・鋼管杭 など)
杭と一口に言っても、材質やつくり方の違いによって、いくつかの種類に分かれます。代表的なのは場所打ち杭、既製コンクリート杭、鋼管杭などです。それぞれ特徴があり、現場条件によって使い分けられます。
場所打ち杭:
現場で穴を掘り、その中に鉄筋かごを入れてコンクリートを流し込むタイプの杭です。大きな径(直径)の杭をつくりやすく、超高層ビルなどの重たい建物にも対応できます。その一方で、掘削・鉄筋・コンクリートと工程が多く、品質管理も重要になります。杭工事の現場では、よく見かけるメジャーな工法です。
既製コンクリート杭(PC杭など):
工場であらかじめつくられたコンクリート杭を現場に運び、クレーンなどで建て込み、打ち込んでいく方式です。工場製なので品質が安定しており、施工スピードも比較的速いのが特徴です。ただし、運搬や建て込むためのスペースが必要なため、敷地条件によっては採用しづらい場合もあります。
鋼管杭:
鋼(鉄)の管を使った杭です。軽量で扱いやすく、溶接による継ぎ足しも可能なため、深い位置まで到達させることができます。耐震補強や橋脚の基礎など、さまざまな用途で使われています。
現場で働くうちに、「今日は場所打ちか」「この現場は鋼管杭だから溶接があるな」といったイメージが自然と身についてきます。最初は種類が多くて難しく感じるかもしれませんが、実際に材料や重機を目の前で見ながら覚えていけるので、未経験スタートでも安心して学べる分野です。
主な杭工法の違いと特徴(オールケーシング・アースドリル等)
杭工事では、どんな機械で、どのように地盤を掘るかという工法も重要なポイントです。代表的なのが、オールケーシング工法やアースドリル工法などです。
オールケーシング工法:
円筒状の鋼製の筒(ケーシング)を回転させながら地中に押し込み、その中を掘削していく方法です。ケーシングが周囲の土を押さえ込んでくれるため、周りの地盤に与える影響が少なく、崩れやすい地盤でも安定して掘ることができます。騒音や振動も比較的抑えられるため、都市部のビル工事などでよく使われる工法です。
アースドリル工法:
大きなスクリュー(らせん)状の刃が付いたドリルで地面を掘っていく工法です。比較的シンプルな仕組みで、さまざまな地盤に対応しやすいのが特徴です。こちらも場所打ち杭の代表的な工法の一つで、杭工事現場に入ると目にする機会が多いはずです。
他にも、地盤をゆるめながら鋼管を回転圧入する工法や、セメントミルクを噴出しながら改良・掘削を行う工法など、多くのバリエーションがあります。ただ、未経験の方はまず工法によって重機の形が違う、地盤の条件に合わせて工法を選んでいるという大枠を理解しておけば十分です。
現場で先輩たちの作業を見ながら、「これはオールケーシング」「これはアースドリル」と一つずつ覚えていくことで、自然と知識が増えていきます。工法を理解できるようになると、図面や施工計画の話も少しずつ聞き取れるようになり、仕事のおもしろさが一段階アップします。
土木と建築で少し違う杭工事の位置づけ
杭工事は、土木工事と建築工事のどちらにも関わる分野です。ただ、どちら側の現場かによって、呼ばれ方や位置づけが少し違うことがあります。
建築寄りの杭工事では、マンションやオフィスビルなど、建物の基礎としての杭が中心になります。建築構造の一部として扱われるため、建築設計事務所やゼネコンの建築部門と一緒に進めることが多くなります。現場の雰囲気としては、ビル工事の一工程というイメージで、鉄骨・コンクリート・仕上げなど、他の建築職種とも関わりが出てきます。
一方、土木寄りの杭工事では、橋脚・高架道路・港湾施設・防波堤など、インフラ系の構造物を支えるための杭がメインになります。こちらは土木構造物としての扱いが強く、土木設計や公共工事のルール・基準に沿って進められます。現場の規模が非常に大きくなることも多く、長期の現場や地方での工事も増える傾向があります。
あなたがこれから杭工事の仕事を目指す場合、建築寄りの現場が多い会社か土木寄りの現場が多い会社かで、携わる構造物の種類や働き方が少し変わってきます。ただし、どちらにしても「地面の中で構造物を支える」という本質は同じです。どの分野で経験を積んでも、地盤や基礎に関する知識と技術は一生ものの武器になります。
土木・建築どちらの現場も経験してみると、「自分はインフラ系が好き」「ビル工事の雰囲気が合っている」など、将来の方向性も見えやすくなります。未経験から入る段階では、分野にこだわりすぎず、まずは杭工事の基礎をしっかり覚えるというスタンスで飛び込んでみるのがおすすめです。
杭工事の具体的な仕事内容・1日の流れ
未経験で現場仕事の仕事探しをしている人で「実際、杭工事の現場ではどんな1日を過ごしているのか?」と気になる人も多いのではないでしょうか。ここでは、一般的な杭工事の現場をイメージしながら、朝の段取りから作業、片付けまでの流れを、できるだけリアルにお伝えします。
杭工事は、重機を使った大がかりな作業が多い一方で、図面の確認や測量、品質チェックなど、細かい確認作業もセットになった仕事です。現場作業員=体力だけでこなせるわけではなく、周囲とのコミュニケーションや、安全に気を配る姿勢も大切になります。
未経験の方にとっては、不安な言葉も出てくるかもしれませんが、最初からすべてを一人でできる必要はありません。まずは「朝はこんな準備をする」「日中はこんな役割分担で動く」といった大まかなイメージをつかむところからで十分です。
朝イチの段取り:KYミーティングから重機配置まで
杭工事や現場仕事の1日は、朝の段取りでほぼ決まると言ってもいいほど、大事な時間です。現場に集合したら、まずは朝礼とKYミーティング(危険予知活動)を行います。今日の作業内容を全員で確認しながら、「どんな危険が考えられるか」「どうすれば事故を防げるか」を話し合います。たとえば、「今日はクレーンで杭の建て込みがあるから、振り回し範囲には絶対に入らない」「雨上がりで地面がすべりやすいから、足元に注意しよう」といった具体的なポイントを共有します。
その後、重機の点検・配置を行います。オペレーター(操縦する人)が油量やワイヤーの状態、異音がないかなどを確認し、手元作業員が周りの安全養生(バリケード・カラーコーン・立入禁止表示など)を整えます。未経験で入ったばかりのうちは、この点検の補助や、ホース・コード類を踏まれないように整理したり、資材置き場を整頓したりといった現場の準備役を任されることが多いです。
ここで大切なのは、「ただ言われたことをこなす」のではなく、「なぜこの養生が必要なのか」「何のための点検なのか」を考えることです。理由を理解しながら作業することで、成長スピードがまったく変わってきますし、将来、自分が後輩に教える立場になったときにも役立ちます。朝イチの段取りをきちんとできる現場は、事故が少なく、作業もスムーズに進みます。
杭芯出し・墨出しとは?図面を現場に落とし込む仕事
重機を動かす前に必ず行うのが、杭芯出し(くいしんだし)や墨出しと呼ばれる作業です。これは、図面上に描かれた杭の位置を、実際の現場の地面に正確に写し出す仕事です。いくら強い基礎ぐいをつくっても、位置がズレてしまえば設計どおりの性能を発揮できません。杭工事の品質を決める、とても重要な工程です。
具体的には、測量機器(トランシットやレベルなど)を使って基準になる点を確認し、そこから寸法を追って杭の中心位置を割り出していきます。その位置にスプレーやチョークで印をつけたり、杭の中心を示す杭芯(くいしん)のピンを打ち込んだりします。この段階でミスがあると、後ろの工程すべてに影響してしまうため、ベテランの職長や測量に慣れた担当者が中心になります。
未経験者のうちは、器具を運んだり、墨出しの印を打ったり、杭芯を保護するためのカバーを付けたりといった補助作業からスタートします。ただ、「測量は難しそうだから自分には無理」と決めつける必要はありません。数字や図面に慣れてくると、だんだん「ここが基準になる」「この寸法で杭位置を出す」といった考え方が分かるようになり、仕事のおもしろさも増してきます。
図面を現場に翻訳するこの仕事は、単なる肉体労働ではなく、頭を使う技術職の一面もあります。杭工事の仕事を通して測量や図面読みのスキルを身につければ、将来、施工管理や現場監督の道に進むことも十分可能です。
重機オペレーターと手元作業員の役割
杭工事の現場では、大型の重機が活躍します。掘削機、クレーン、ポンプ車など、さまざまな機械が動いており、それぞれにオペレーターと呼ばれる操縦担当者がいます。そして、そのオペレーターを支えるのが手元作業員です。未経験で入った方の多くは、まずこの手元作業員からスタートします。
重機オペレーターの役割は、その名の通り重機を安全かつ正確に操作することです。杭の建て込み位置にピタッと合わせたり、掘削の深さを調整したり、周囲の作業員と合図を交わしながら作業を進めます。操作ミスが事故につながるため、高い技術と集中力が求められますが、その分、現場から頼りにされる存在です。経験を積み、資格を取得してこのポジションにステップアップできれば、収入面でも大きなプラスになります。
一方、手元作業員は、重機の周りでさまざまな補助作業を行います。合図を送る手振りや、ワイヤー・フックの掛け外し、資材搬入の誘導、泥や砕石の処理、工具の準備・片付けなど、重機がスムーズに動けるようにサポートするのが主な役割です。「なんだ、補助か」と思うかもしれませんが、現場全体をよく見て動ける手元は、どの会社でも重宝されます。
最初は覚えることが多く感じるかもしれませんが、日々の作業の中で「このタイミングで声をかけよう」「ここに道をつくっておくと重機が動きやすい」といった気づきが増えていきます。将来的にオペレーターを目指す場合も、手元として現場の流れを理解しておくことが大きな武器になります。「いつか自分も重機に乗るぞ」という目標を持ちながら、まずは手元として確実に経験を積んでいきましょう。
鉄筋かご建込み・コンクリート打設のポイント
場所打ち杭の現場では、鉄筋かごを穴の中に建て込み、そのあとコンクリートを流し込む打設(だせつ)という工程があります。ここも杭工事の中で非常に重要な作業で、基礎ぐいの強度や耐久性に直結します。
まず、工場や現場で組み立てた鉄筋かごを、クレーンで吊り上げて掘削した穴の中にそっと下ろしていきます。このとき、図面どおりの高さ・位置に収まっているかを確認しながら、スペーサーと呼ばれる部材でコンクリートのかぶり厚(鉄筋と外側との距離)を確保します。鉄筋が外側に寄りすぎていると、将来的に錆びやすくなり、杭の寿命を縮めてしまうためです。
次に、コンクリート打設です。ポンプ車やホッパーを使い、杭の穴の中にコンクリートを流し込んでいきます。途中で空洞ができないように、連続して打ち続けることが大切です。また、コンクリートの材料がきちんと設計どおりか、スランプ(柔らかさ)や温度は問題ないかなど、品質面のチェックも行います。
未経験者は、最初はホースの誘導やバイブレーター(振動機)の補助、打設中の記録係などを任されることが多いでしょう。コンクリート=ただ流すだけと思われがちですが、実際は細かい配慮とチームワークが必要な繊細な作業です。
この工程を何度も経験することで、コンクリートの扱い方や鉄筋の基本も自然と身についていきます。これらの知識は、土木・建築のどの現場に行っても役立つ現場共通の基礎力です。
杭屋のリアルな1日のスケジュールと残業・休憩事情
「杭工事の現場で働くと、実際どんな1日になるのか?」というリアルなイメージをお伝えします。会社や現場によって多少前後はありますが、一般的には次のような流れです。
朝は7時~8時ごろに現場集合し、朝礼・KYミーティング・段取りを行います。その後、午前中は杭1~2本分の掘削・建て込み・打設など、メインの作業に集中します。10時ごろに15分程度の小休憩をはさみ、12時前後から昼休憩(60分)が入るケースが多いです。昼休憩はしっかり取れる現場がほとんどで、弁当を食べて仮眠をとる職人も多いです。
午後も同じように作業を続け、15時ごろに再度小休憩をはさみます。夕方には、その日の作業の区切りを見て片付け・清掃・翌日の段取りを行い、17時~18時ごろに現場を後にするイメージです。杭工事は重機を使うため、夜遅くまでの残業はあまり好まれませんが、工程の状況やトラブル対応などで残業が発生することもあります。
体力的には楽とは言えませんが、夏場の熱中症対策や冬場の防寒対策など、最近は安全面・健康面への配慮も手厚くなってきています。また、休憩中の雰囲気は意外と和やかで、仕事中はピリッとしていても、休憩時間は冗談も飛び交うギャップがある現場も多いです。
「キツいだけの仕事」というイメージを持っている方もいるかもしれませんが、実際にはチームで支え合いながら進めていく仕事です。ルールとリズムに慣れてしまえば、「今日は○本打ち終わったな」「段取りがうまく回ったな」と、一日の終わりにほどよい達成感を味わえるはずです。未経験スタートでも、1~2か月もすれば現場の流れがつかめてきて、「自分も現場の一員として動けている」という実感が持てるようになります。
杭工事の魅力・やりがい
現場仕事を検索して調べていると。「きつい」「汚れる」といったイメージが先に目につくかもしれません。たしかに、外仕事で天候にも左右されますし、体力も必要です。ただ、それだけで終わらせてしまうのはもったいないくらい、この仕事には大きな魅力とやりがいがあります。
杭工事は、建物やインフラを足元から支えるスタート地点の工事です。自分たちがつくった基礎ぐいの上に、鉄骨やコンクリートが積み上がり、何十年も使われる建物が完成していきます。完成後は目に見えない部分だからこそ、「知る人だけが分かる誇り」を持てる仕事だとも言えます。
ここでは、目に見えない達成感、手に職としての強さ、スキルアップの幅、稼ぎ方のバリエーションという4つの視点から、杭工事の魅力を未経験の方にもお伝えしていきます。
目に見えない達成感
杭工事の一番のやりがいは、「自分の仕事が大きな建物やインフラを支えている」という実感を持てることです。たとえば、高層マンションや商業施設、大型倉庫、橋脚など。完成して人が出入りするようになったころには、杭はすべて地面の中に隠れてしまい、誰の目にも触れません。
しかし、その建物が長い年月、安全に使われ続けているのは、最初にきちんとした基礎ぐいを施工したからこそです。何年か後にその街を通りかかったとき、「このビルの杭、昔うちのチームで打ったな」と思える瞬間は、ほかの仕事ではなかなか味わえない特別な感覚です。名前が残るわけではなくても、「この街の景色の一部を、自分たちが作った」という誇りは、静かに、確かに残ります。
また、地震の多い日本では、基礎がしっかりしているかどうかが人命に関わる場面もあります。もちろん、設計や材料など多くの要素が関わりますが、「自分が丁寧に施工した杭が、どこかの誰かの安全につながっている」と考えると、1本1本の杭に向き合う姿勢も自然と変わってきます。
表に出ない仕事だからこそ、分かる人には分かる価値がある。これは、杭工事という基礎ぐいの仕事ならではの、大きな魅力と言えるでしょう。
技術がそのまま「食えるスキル」になる仕事
杭工事のもう一つの魅力は、身につけた技術が、そのまま食えるスキルになるという点です。とくに、手に職をつけておきたいと考えている方には、大きな武器になります。
たとえば、杭芯出しや墨出しの経験を積めば、測量や図面の読み方が身につきます。鉄筋かごやコンクリート打設の工程を理解すれば、土木・建築の基礎知識が自然と増えていきます。さらに、資格を取りながら重機オペレーターとして経験を積めば、杭工事の仕事だけでなく、他の土木現場でも必要とされる人材になっていきます。
これらの技術は、単なる社内ルールではなく、建設業界全体で通用するものです。会社が変わっても、現場が変わっても、「杭工事で〇年やってきました」「この工法は経験があります」と言えるだけで、評価が変わる場面は多くあります。いわば、転職や独立に強いポータブルスキルを身につけられる仕事だと言えます。
もちろん、最初の1〜2年は覚えることも多く、体力的にも大変に感じるかもしれません。ただ、その期間を乗り越えて任せてもらえる仕事が増えてくると、自分の中で「これは自分の武器だ」と言える技術が少しずつ増えていきます。それが、長期的な安心感や自信につながるはずです。
重機・測量・施工管理…スキルアップの幅が広い理由
杭工事の現場は、一見すると重機が動いているだけに見えるかもしれませんが、実際にはいろいろな専門スキルが集まって成り立っています。そのため、キャリアを重ねるなかで、さまざまな方向にスキルアップしていけるのも大きな魅力です。
まず王道なのが、重機オペレーターの道です。掘削機やクレーン、リーダー(杭打ち機)などの操作技術を磨き、資格を取得していけば、現場の中心的なポジションになれます。重機オペは責任も大きいですが、その分、給与面でも優遇されることが多く、目に見える形で評価される働き方を目指せます。
次に、測量・施工管理の道です。杭芯出しや墨出しを通して図面に強くなっていけば、職長や現場監督の補佐、将来的には施工管理技士として、現場全体をまとめる役割にステップアップしていくこともできます。「いつかはホワイトカラー寄りの仕事もしてみたい」という方にとっても、杭工事の経験は強みになります。
さらに、地盤改良や他の基礎工事への横展開も可能です。杭工事で覚えた重機・コンクリート・鉄筋の知識は、地盤改良工事や土木一般工事でも役立ちます。会社によっては、杭工事と地盤改良、山留め(やまどめ)など、関連する工事を一式で請け負っているところもあり、現場を変えながら幅広く経験を積むこともできます。
このように、杭工事は「入ったら一生同じことの繰り返し」ではなく、本人のやる気次第で進路を選べる分岐点が多い仕事です。未経験でスタートしても、「数年後どんなポジションを目指したいか」を考えながらスキルアップしていける環境だと言えます。
給与水準と稼ぎ方(夜勤・各種手当でどう変わる?)
「魅力と言われても、結局いくら稼げるの?」というのは、多くの方が気になるポイントだと思います。会社や地域によって差はありますが、杭工事を含む基礎ぐい関係の仕事は、建設業の中でも比較的稼ぎやすい部類に入ることが多いです。理由は、専門性が高く、重機や資格が関わる分、手当や日当が上乗せされやすいからです。
未経験のうちは、一般的な現場作業員と同程度のスタートになることが多いものの、残業代・夜勤手当・出張手当などがつくことで、額面が増えていくケースがよく見られます。都市部の再開発現場や大規模工事では、工程の都合で夜間作業や長期出張が発生することもあり、その分、手当でしっかり稼げるパターンもあります。
また、資格を取って玉掛け・小型移動式クレーン・車両系建設機械などを扱えるようになると、資格手当やオペレーター単価として給与が上がりやすくなります。会社によっては、「○○の資格を取ったら○円アップ」と明確に決まっているところもあり、自分の努力が収入に直結しやすい環境と言えます。
もちろん、常に高収入が保証されているわけではなく、天候や現場の受注状況などで、残業が少ない時期もあれば多い時期もあります。ただ、杭工事の魅力として言えるのは、「経験と資格を積めば積むほど、選べる現場や会社の幅が広がり、結果として収入面の選択肢も増えていく」という点です。短期的な月収だけでなく、「数年後どのくらいの年収を目指せるか」という視点で見てみると、この仕事の魅力がよりはっきりしてくるはずです。
杭工事の将来性とキャリアパス
「未経験でスキルもない状態でこの業界に入って、将来大丈夫なのか?」——これは、多くの未経験者が一番気にするポイントだと思います。結論から言うと、杭工事をはじめとする基礎ぐいの仕事は、今後もしばらく需要が続きやすい分野です。理由は、老朽化した建物やインフラの建て替え・補強、都市の再開発、新しい物流施設や工場の建設など、地面の上に何かを建てる限り、基礎工事は必要になるからです。
また、杭工事は重機・測量・コンクリート・安全管理など、さまざまなスキルが身につく仕事です。そのため、現場作業員としてだけでなく、職長・現場代理人・重機オペレーター・一人親方・施工管理技士など、キャリアの選択肢も広めです。
ここからは、仕事がなくなりにくい理由、現場からのステップアップルート、独立という選択肢、若手にとっての追い風、デジタル化で変わる現場の姿という5つの観点から、杭工事の将来性とキャリアパスを具体的に見ていきましょう。
杭工事の仕事がなくなりにくい理由=再開発・老朽化対策
杭工事の将来性を考えるうえで、まず知っておいてほしいのが、建物やインフラには必ず寿命があるという事実です。マンションやビル、橋、トンネル、港湾設備などは、数十年〜数百年という長いスパンで使われますが、どこかで必ず建て替えや大規模修繕のタイミングが訪れます。
とくに日本では、高度成長期に大量に建てられた建物やインフラが、次々と老朽化の時期を迎えています。古くなった建物をそのまま放置するわけにはいかないため、解体 → 新築 → 再開発という流れは今後もしばらく続くと考えられています。新築や建て替えを行う以上、その足元を支える基礎ぐいの工事、つまり杭工事は必要になります。
また、地震が多い日本では、耐震性の高い建物やインフラが求められます。過去の基準で建てられた建物を、より安全な基準で建て直したり、補強したりする流れも続いています。こうした耐震対策の中でも、基礎を強化する工事や追加の杭を打つ工事が行われることがあり、杭工事の出番は少なくありません。
もちろん、景気の波によって建設投資が増減することはありますが、人が暮らし、働き、物流が動いていく限り、建物やインフラは必要という大きな流れは変わりません。表に出る華やかな部分ではありませんが、社会に必要とされ続ける仕事という意味では、杭工事は安定したポジションにあると言えます。
職長・現場代理人・重機オペ…現場からのステップアップ例
未経験から杭工事に入ると、最初は手元作業員としてスタートすることが多いですが、そこからのステップアップの道はいくつもあります。ここでは、代表的なキャリア例をいくつかご紹介します。
1つ目は、職長(現場のまとめ役)へのステップアップです。数年〜10年程度、現場での経験を積みながら、段取り力やコミュニケーション力を磨いていくと、「次の現場では職長を任せたい」と声がかかるケースがあります。職長になると、作業の指示出し、安全管理、工程の調整など、現場の司令塔として活躍することになります。責任は増えますが、その分、やりがいも大きく、給与面でも優遇されることが多いポジションです。
2つ目は、重機オペレーターとして専門性を高めるルートです。玉掛け・小型移動式クレーン・車両系建設機械などの資格を取得し、徐々に操作に慣れていくと、掘削機やクレーンのオペレーターとして現場の中心的な役割を担えるようになります。現場で重機を自在に操る」というのは、多くの若手が憧れるポジションでもあり、一生ものの技術として他社でも通用します。
3つ目は、施工管理・現場代理人への道です。測量や図面、品質管理、安全書類などに関わるようになると、現場全体を管理する立場への道も開けてきます。土木施工管理技士などの資格を取得し、現場代理人として現場の責任者を任されるようになれば、仕事の幅も収入も大きく広がります。将来は肉体労働だけでなく、管理側にも関わりたいという方には、魅力的なコースです。
このように、杭工事は「ずっと同じ作業だけを続ける仕事」ではなく、現場経験を積むほどキャリアの選択肢が増えていく仕事です。20代の若いうちからこの世界に入れば、30代には職長・オペレーター・施工管理など、複数のルートを選べるポジションに到達できる可能性があります。
一人親方・下請け業者として独立する道もある
杭工事で経験を積んだ先には、独立して一人親方や小規模の下請け業者として働くという選択肢もあります。もちろん、すべての人に向いているわけではありませんが、「自分の裁量で仕事を選びたい」「将来は自分の会社を持ちたい」と考えている方にとっては、大きな夢の一つになるでしょう。
独立のスタイルはいくつかあります。たとえば、重機オペレーターとして技術と資格を身につけたうえで、自分の重機を持ち、元請け・一次下請けから仕事を受ける形もあります。また、数名の仲間とチームを組み、杭工事の一部を専門に請け負う下請け業者として動くパターンもあります。
もちろん、独立にはリスクもあります。仕事の受注・請求・経理・人材確保など、会社員時代には意識していなかった部分も自分でやらなければなりません。ただ、杭工事のように専門性が高く、経験者が限られている分野では、腕のある職人チームへのニーズは根強くあるのも事実です。
20代のうちから杭工事の現場で地道に経験を積み、人脈を広げ、資格をそろえていけば、30代〜40代で独立を視野に入れることも十分可能です。いきなり独立は現実的ではありませんが、いつか独立できるレベルの技術を持った職人になるという目標を持って働くのは、日々のモチベーションアップにもつながります。
人手不足で若手や未経験者にチャンスが来ている
建設業界全体の傾向として、慢性的な人手不足が続いています。ベテラン層の高齢化が進む一方で、若い世代の入職者は決して多くありません。その結果、若手のやる気がある人にとっては、チャンスが増えている状況とも言えます。杭工事も例外ではなく、しっかり働く若手は現場から重宝されることが多いです。
また、最近では外国人技能実習生や特定技能として働く外国人労働者も増えており、多国籍な現場も珍しくなくなってきました。言葉や文化の違いはありますが、共通しているのは「真面目に働く人が評価される」という点です。日本人の若手で、まじめにコツコツ覚える姿勢のある人は、現場でも「ぜひ育てたい」と思ってもらえることが多いです。
人手不足というとネガティブに聞こえるかもしれませんが、裏を返せば、若いうちからチャンスが回ってきやすい業界だということです。まだ経験が浅いからと遠慮してしまうのではなく、「分からないことは素直に聞く」「遅刻しない・休まない」「安全ルールを守る」という基本を徹底していれば、自然と任される仕事が増えていきます。
BIM/CIM・ICT施工で現場はどう変わる?デジタル時代の杭工事
近年、建設業界でもデジタル化・ICT施工の流れが進んでいます。BIM/CIM(3Dモデルを使った設計・施工管理)や、ドローンによる測量、ICT建機(位置情報やセンサーを活用した重機)など、新しい技術が現場に導入されはじめています。杭工事においても、掘削深さや位置情報をデジタルで管理したり、施工データを自動で記録したりといった取り組みが増えつつあります。
これを聞くと、「機械に仕事を奪われるのでは?」と不安に思う方もいるかもしれません。しかし実際には逆で、こうした技術をうまく使いこなせる人材の価値は今後さらに高まっていきます。たとえば、タブレットで施工データを確認しながら重機を誘導したり、3D図面を見ながら杭位置をチェックしたりと、現場とデジタルの橋渡しができる若手は、会社にとって非常に貴重な存在です。
何十年も前のイメージで、建設はアナログで泥臭い仕事と思われがちですが、これからの杭工事は、体を使う仕事+デジタルを使いこなす頭脳が求められる仕事へと少しずつ変わっていきます。デジタルネイティブ世代である20代にとっては、むしろチャンスと言える変化です。
未経験から杭工事に入る方は、どうせ自分には無理と決めつけず、現場の基礎を覚えながら、少しずつデジタルにも触れていくというスタンスがおすすめです。現場とICTの両方に強い技術者になれれば、今後ますます需要が高まるでしょうし、将来的に施工管理や技術営業の道に進むことも視野に入ってきます。
杭工事で役立つ資格・免許
杭工事の求人を見ると、よく書かれているのが資格保有者優遇、入社後に資格取得支援ありといった文言です。実際、杭工事の現場では、資格を持っているかどうかで任される仕事の幅と収入の伸び方が大きく変わります。
とはいえ、最初から全部そろっている必要はまったくありません。「1年目はこれ」「3年目までにここまで」と、ロードマップを意識してコツコツ増やしていくイメージで十分です。
ここでは、CCUS(建築キャリアアップシステム)の能力評価基準に則り、杭工事の現場に携わる職人として持っておくと有利な代表的な資格をご紹介します。
入職~3年目目安
未経験からスタートする場合、まず大切にしたいのは「安全に働くこと」と「基本的な技術を身につけること」です。そのため、入職から3年目目安に取得を目指したい特別教育・技能講習・資格を以下に整理しました。
▼特別教育系
小型車両系建設機械(整地運搬積込機・掘削機・基礎工事機・解体用機械)の運転特別教育
小型のバックホウやミニユンボなど、一定規模以下の車両系建機を扱うための特別教育です。整地・残土の片付け・小規模な掘削など、「ちょっと機械を動かしてほしい」という場面で役立ちます。いきなり本格オペレーターにはなれませんが、ただの手元作業員から一歩抜け出すための入り口になります。
▼技能講習系
玉掛け技能講習
クレーンで重いものを吊るときに、ワイヤーやフックをどう掛けるかを学ぶ資格です。杭・ケーシング・鉄筋かごなど、杭工事ではとにかく玉掛けが多いので、CCUS上でも杭工事技能者としてのスタートラインになります。
車両系建設機械(基礎工事用)運転技能講習
杭工事そのものに直結する資格です。オールケーシング機やアースドリルなど、基礎工事用の特殊建機を扱うための講習で、杭工事の中核に近づくための一枚と言って良い資格です。これを持っていると、ただの手元作業員ではなく、基礎工事専門の技術者見習いとして見てもらいやすくなります。
車両系建設機械(整地・運搬・積込み用及び掘削用)運転技能講習
バックホウ(油圧ショベル)などの本格的な車両系建機を運転するための技能講習です。杭工事でも、残土の積込み・ヤード整備・地盤の整地など、
バックホウが活躍する場面はとても多いです。この資格を取り、現場で経験を積むことで、車両系オペとしての評価が付き始めます。
小型移動式クレーン運転技能講習
つり上げ荷重5t未満の小型クレーン(ユニック車など)を操作する資格です。杭の建て込みや、鉄筋かご・ケーシングの移動など、吊り+運搬が自分でできるようになり、現場での存在感がぐっと増します。玉掛け+小型移動式クレーンのセットは、杭工事に限らず建設業全般で重宝されます。
▼資格系
移動式クレーン運転士
つり上げ荷重5t以上のクレーンを扱える、国家資格です。大径杭や長尺杭、重量物の建て込みが多い杭工事の現場では、移動式クレーン運転士の存在は主役級と言っていいほど重要です。学科試験+実技試験があるため、いきなり挑戦するには少しハードルが高めですが、1~3年目で現場経験を積みながら計画的に勉強すれば、十分狙えるレベルです。
基礎杭溶接管理技術者
鋼管杭同士を現場で溶接してつなぐ際、その溶接の品質・手順を管理する立場に必要な資格です。どんな溶接方法で、どんな検査をし、どの基準を満たしていればOKなのか。こうしたルールを理解し、現場で指導・管理する役割を担います。ある程度の実務経験や、溶接に関する知識が求められるため、入職すぐではなく、2~3年目以降のステップアップ資格としてイメージすると良いでしょう。
基礎杭溶接技能者
実際に手を動かして溶接を行う職人側の資格です。鋼管杭現場では、溶接がしっかりしていない=杭の性能に直結するため、技能者の腕前が非常に重要になります。溶接は、習熟に時間がかかる分、身につければどこへ行っても通用する食える技術です。
3年目~7年目目安
入職から3年目くらいになると、現場の一通りの作業は、過去の事例から予測しながら動けるレベルになっていきます。ここから先、3~7年目あたりは、職長候補・リーダー候補として育っていく、または施工管理や高度な技能系に進路が分かれていく時期になります。そこで重要になってくるのが、安全衛生教育と、施工・機械系の資格です。
▼安全衛生教育系
車両系建設機械(基礎工事用)運転業務従事者安全衛生教育
オールケーシング機、アースドリル機など、基礎工事用の機械を扱う人向けの安全衛生教育です。杭工事の現場は、掘削孔・泥水・重機・足場など、危険要素が重なりやすい環境です。この教育では、掘削孔周りの立ち入り管理、挟まれ・巻き込まれ事故の防止、機械トラブル時の対応など、基礎工事ならではのリスクと対策を体系的に学びます。
車両系建設機械(整地・運搬・積込み用及び掘削用)運転業務従事者安全衛生教育
すでに車両系建設機械の運転技能講習を持っている人が、一定の経験を積んだのちに受けるレベルアップ用の安全教育です。バックホウやホイールローダーなどを、より安全に・より周囲に配慮しながら運転するための、事故例やリスク対策を学び直します。
移動式クレーン運転士安全衛生教育
移動式クレーン運転士(国家資格)を取得した人が、実務経験を積んだうえで受ける安全のブラッシュアップ講習です。クレーン関連の災害は、一度起きれば重大事故になりやすいため、最新の事故事例と防止策を定期的にアップデートしておくことが重要です。吊り方、地盤条件、合図者との連携、風速・周辺環境の判断など、クレーン作業全体を俯瞰した安全管理の視点を身につけます。
職長・安全衛生責任者教育
3~7年目のタイミングで、ぜひ受けておきたいのがこの教育です。現場の職長や安全衛生責任者として、
・作業手順の作成/指示
・KY(危険予知活動)の進行
・新人への教育
・労働災害が起きた場合の対応
などの役割を担うための基礎を学びます。この教育を受けているかどうかで、ただのベテランと、現場を任せられるリーダー候補の差がついてきます。
▼資格系
基礎施工士
基礎工事のプロを証明する、民間資格の中でも評価が高い一つです。杭・地盤改良・山留など、基礎工事に関する幅広い知識を問われます。すでに現場経験を持つ人にとっては、今やっている仕事を理論で整理し直す良い機会になります。杭工事会社・基礎専門業者にとっては、基礎施工士が在籍している=技術力のアピールにもなるため、取得を推奨している会社も多いです。
2級土木施工管理技士
土木系の現場(橋梁・道路・造成・河川など)で、主任技術者・現場代理人の候補として認められる国家資格です。杭工事の中でも、土木寄りの工事(橋脚、擁壁、大型土木構造物など)に携わる場合、この資格を持っていると一気に仕事の幅が広がります。3~7年目での取得を目標にしておくと、職長クラス、現場監督見習いとして、現場の前線と管理の両方に関われるポジションを狙えます。
2級建築施工管理技士
マンション・ビル・工場・商業施設など、建築よりの杭工事に携わるなら、建築施工管理技士も非常に相性の良い資格です。土木施工管理技士=インフラ・土木系、建築施工管理技士=建物系とイメージすると分かりやすいです。建築現場の杭工事からスタートし、ゆくゆくは上部構造(基礎以降の建物本体)も含めて管理していきたい人には、強力な武器になります。
2級建設機械施工技士
重機寄りのキャリアを進みたい人におすすめなのが、この資格です。バックホウ・ブルドーザー・クレーンなど、建設機械を使った施工全体についての知識と管理能力が問われます。すでにオペレーターとして経験を積んできた3~7年目の人にとっては、現場での体験をうまく言語化して整理できる資格とも言えます。取得すると、機械に乗れる人から一歩進んで、機械施工全体を理解している技術者として見られるようになります。
7~10年目目安
入職から7~10年目ともなると、あなたはすでに中堅職人ではなく、現場の中心を担う中核メンバーになっているはずです。ここから先は、自分の班(チーム)を率いる側、会社の看板として元請けと渡り合う側へと一段ステージを上げていくタイミングです。
登録基礎工基幹技能者
簡単に言うと、基礎工事のエース職長を公式に証明する資格(称号)です。長年の基礎工事(杭・地盤改良など)の実務経験、職長としての指導・管理経験、所定の講習・審査といった条件をクリアした人だけが名乗れる基幹技能者で、元請けや発注者から見ても、「この人が現場をまとめているなら安心だ」と判断するための大きな材料になります。杭工事の現場では、登録基礎工基幹技能者はこんな役割を担います。
・現場全体の段取り/工程調整
・安全/品質の中核的な管理
・若手/中堅への技術指導
・元請け/監理者との技術的な打ち合わせ
つまり、手を動かす職人+現場を設計するリーダーという二つの顔を持つ存在です。
1級土木施工管理技士
道路・橋梁・河川・造成・港湾など、土木工事全般を管理するための最高ランクの国家資格です。杭工事の中でも、橋脚や高架橋の基礎杭、港湾施設・護岸構造物の杭、大型土木構造物の基礎ぐいといった土木色の強い杭工事に携わる人にとっては、非常に相性の良い資格です。この資格を持つと、
・大規模工事で監理技術者として配置できる
・元請け側で現場代理人を任されるチャンスが増える
・入札や工事成績で有資格者数として評価されやすい
といったメリットがあります。現場レベルで言えば、
・工事全体の工程/出来形/品質管理
・下請け業者との調整
・発注者/コンサルとの協議/書類対応
など、現場を動かす側の仕事がメインになっていきます。
1級建築施工管理技士
杭工事の中でも、マンション、商業施設、工場・倉庫といった建築系の現場が多い人にとっては、1級建築施工管理技士が大きな武器になります。この資格は、建築工事の施工計画、工程管理、品質・安全管理などを総合的に担う建築側のトップクラス資格です。杭工事の経験を持つ人がこれを取得すると、基礎工事だけの人ではなく、
・建物全体が分かる現場監督になれる
・ゼネコン側や元請け側のポジションにもチャレンジしやすくなる
・建築現場での信頼度が飛躍的にアップする
といったメリットが出てきます。たとえば、これまでは基礎工事が終わったら現場を離れる側だったところから、この資格を持つことで、
・杭工事の計画段階から関わり
・上部構造(躯体/仕上げ)まで一連の流れを管理する
という現場全体を見る側に立つことが可能になります。
1級建設機械施工技士
バックホウ・ブルドーザー・クレーンなどの建設機械を使った施工全般について、高度な知識・計画力を持つことを示す国家資格です。杭工事はまさに、、基礎工事用の専用建機、クレーン、車両系建設機械がフルに活躍する機械施工の塊」ような工種です。ここで10年近く経験を積んだ人がこの資格を取得すると、機械をどう組み合わせて現場全体を組み立てるか考えられる人へと、立ち位置が大きく変わります。具体的には、
・機械の選定/配置計画
・作業効率と安全性を両立した施工計画の立案
・燃料費/リース代などを含めたコスト管理
・ICT建機導入時の運用設計
といった、機械施工の司令塔としての役割を担えるようになります。
資格取得とCCUSを味方につけて
ここまで見てきたように、杭工事の世界では、資格は単なるおまけではなく、あなたの仕事の幅と評価、そして将来の年収を大きく左右する武器です。
玉掛けや小型移動式クレーンといった入門レベルから始まり、車両系建機・基礎工事用建機・クレーン運転士、安全衛生教育、さらに基礎施工士や各種施工管理技士・建設機械施工技士へとステップアップしていくことで、言われた作業だけをする人から、現場を動かす人へと立場が変わっていきます。そして、その積み上げた資格と現場経験を見える化してくれるのが、CCUS(建設キャリアアップシステム)です。
大切なのは、一気にすべてを目指すのではなく、「入職~3年目」「3~7年目」「7~10年目」と、期間ごとにやるべきことをざっくり決めておくことです。まずは現場に慣れながら必須資格を取り、次にオペレーターや職長候補としての力をつけ、ゆくゆくは登録基礎工基幹技能者や1級各種資格で、その道のプロを名乗れるところまで育てていく──そんなイメージです。
資格とCCUSは、会社のためだけでなく、自分の人生の保険であり、どこへ行っても通用する証明書になります。杭工事で本気で食っていきたいなら、この二つをうまく味方につけながら、自分なりのキャリアマップを描いていきましょう。